● 0. まえがき
こんにちは。knt2です。

さて、ご存知の方も多いと思いますが、2004年の7月7日に開設したこのサイトには当初「出産編」しかありませんでした。

「新生児編」は当初工事中で、見たかったら励ましメールをください、もしも30通を超えたら、そんときゃ書きましょうという、いい加減なスタートだったわけです。

そもそも、こんな偏った内容を、面白がって楽しく見てくれるひとはいないんじゃないか、と僕は思っていました。適当に写真でもアップして、身内で楽めればいいや、と実にお気楽に考えていました。

しかし、フタを開けてみると、どうしてどうして、励ましメールが思った以上に届くではありませんか。多いときには1日に5通も6通も届きました。これは僕が考えていた以上のハイペースでした。

しかも、どのメールもその内容が充実していたのに驚きました。自身の出産の体験談や、その子が今、小学生になりました、というご報告。親の立場でないひとからも、真剣に考えさせられた!とか、出産を身近に感じたという嬉しい感想。あるいは研修医の方からは産婦人科の臨床研修の数々のエピソードなど、どのメールもカタチだけの励ましにとどまらず、自分のこととしてとらえ、自分の言葉として僕にエールを送ってくれたのです。

僕は、これが本当に嬉しかったのです。
皆さんのメールを、僕はひとり、何度も何度も読み返していました。

その中で、ふと、こんな記述がありました。
それは女子高生のお父さんからのメールでした。

> うちの娘は、先ほど「早く風呂に入れヨ」と声をかけたのですが、
> 「ウン」と生返事で、ネッコロガってテレビをみております。
> やれやれ、16年と7ヶ月前のつぶらな瞳はどこへやら...

これを読んだとき、僕は思わず、娘の顔を見てしまいました。
3ヶ月になったばかりの娘は、妻のおっぱいにしがみつき、必死で母乳を吸い出していました。その顔を見ながら僕は、この子がいずれ女子高生になり、ネッコロガッてテレビを見るんだと、妙にリアルにイメージしてしまいました。

16年の歳月を一気に飛び越えた娘は、思春期まっただなかです。寝っ転がっているその背中に、僕の知らない、いろんなことを抱えているんだろうなぁと、勝手に心配してしまいました。

ふと現実の娘に目をやると、僕の視線に気がついたのか、ぐっと顔をこちらを向け、何も言わずに、にやぁ〜っと笑っていました。それはそれは、幸せそうに、いつまでも笑っていました。

これが、新生児編の発端です。

彼女がこの世に生まれた記録と、成長した彼女に対するメッセージを、僕なりのカタチで表現できればと、思ったわけです。

以上、まえがきでした。
祖末な内容ですが、お楽しみあれ!

2004.7.23 -knt2-
● 1. はじめてのうんち
おぼえていますか?
それはあなたが生まれて間もなくのころ。
あなたはひっきりなしに、うんちをしましたね。
おぼえていますか?そのときのうんちの色を。
それは驚くほど鮮やかな緑色でしたね。
父さんと母さんは、それをはじめて見たとき、
病気じゃないかと心配したけれど、
助産婦さんによるとそれは、
胎内で飲みこんだ不要な老廃物や、
まだまだ消化できないおっぱいの成分を、
あなたなりに吐き出そうとしていた、
そのときの正常な色なんだそうです。
なんだか不思議ですね。
それはそうとそのうんちのニオイは、
ほとんど無臭だったけれど、
ごめんね、そんなことも知らずに父さんは、
手についたあなたのうんちを、
「うわ!きったねぇー!」と言いながら、
急いで洗い流していました。
だって、うんちはうんちなんだもの。
しかもそのとき、
あなたは、うんちと、しっこを、同時にしましたよね。
父さんはびっくりしましたよ。
生まれてはじめて、ひとが排泄する瞬間を見ましたよ。
しかも、大、小、同時にですよ。
記念に写真を撮ろうと思ったら、
母さんにひどく怒られましたよ。
それでもあなたは、
なにごともなかったかのように、
下半身まるだしで、
すやすやと熟睡していましたね。
そのたくましさに、父さんは勇気をもらいましたよ。
やがて緑色のうんちが、だんだん黄色に変わってゆくのを、
父さんと母さんは、不思議だね、と言いながら、
毎日眺めていましたよ。
いらなくなった過去のイブツや、消化できない理不尽なモノを
あっさりと、緑色のうんちとして吐き出していたあなたは、
いま、きれいな黄色のうんちをしています。
これから先、いろんなことがあるでしょう。
もう、緑色のうんちの頃に戻ることはできないけれど、
どんなことにも勇気をもって立ち向かい、
きちんとあなたなりに消化して、
元気な黄色のうんちを排泄することを、
父さんは願っています。
● 2. はじめてのゲップ
おぼえていますか?
それはあなたが生まれた日の夜のこと。
ようやく出産の麻酔も切れて、
意識もはっきりとしてきた母さんは、
助産婦さんの指導のもと、
あなたにおっぱいをあげる練習をしていました。
おぼえていますか?
助産婦さんに言われるままに、
ベッドに腰かけた母さんは、
太ももの上に枕を置き、
あなたをその上に、ちょこんとのせました。
驚いたことに、
座高24cmぐらいしかないあなたは、
枕で高さを調節しても、
母さんのおっぱいに、
なかなか届きませんでしたね。
あなたの鼻すじに、
ごっつん、ごっつん、と、
母さんの乳首が当たるのを見て、
父さんは思わず、
「ち、ちっちぇー!」と、
叫んでいましたよ。
そういえばその助産婦さんは、
生まれたばかりのあなたに、むりやり乳を飲ませた、
あの助産婦さんだったので、
父さんは警戒していたけれど、
案の定、かなり強引に、
あなたの首を持ち上げ、
むりやり乳首をくわえさせました。
あなたは例によって、
「うんぎゃー、うんぎゃー」と、
激しく抵抗していたけれど、
やがて母乳が出てくると、
うっく、うっく、と、
分娩台のときよりも、いくぶん落ち着いた様子で、
飲みはじめましたね。
両目をぱっちりと開いて、
両手をぐっと握りしめ、
全身の力をこめて、母さんの乳房から、
エネルギーを吸い取っていましたね。
母さんはそんなあなたを、
愛おしそうに、見つめていましたよ。
「じゃ、お父さん、ゲップさせてあげて」
ひとしきり飲み終えると、助産婦さんはそう言って、
あなたを父さんに渡しました。
「肩にかつぐように抱いて、背中をさすって」
慣れない父さんは、
どきどきしながら、あなたを肩にのせ、
助産婦さんのゼスチャーにしたがって、
あなたの背中を、さすってみました。
「お父さん、そこ、腰です」
えっ?
助産婦さんは冷静に指摘してくれたけれど、
そもそもあなたの背中は、
指4本分ぐらいの広さしかなく、
どこまでが腰で、
どこまでが背中なのか、
父さん、分からなかったんです。
仕方がないから、父さんは、
人差し指と中指で、
あなたのうなじの下あたりを、やみくもに、
おりゃっ、おりゃっ、と、
さすってみました。
胃にガスがたまったあなたは、
苦しそうに、身悶えしていたけれど、
突然、
「ぐぼぉーっ!」と、
その小さな体に似合わない、
とてつもなく大きなゲップをしましたね。
おぼえていますか?
父さんは、びっくりして、
あなたを落っことしそうになったけれど、
ゲップを出し終えたあなたは、
すがすがしい顔をして、
たいそう満足そうに、
父さんの肩に、ぺたっとくっついていましたね。
たかがゲップと、父さんは思っていたけれど、
あなたにとってそれは、
ひとりでは解決できない、大きな問題だったのですね。
これからもきっと、
大きなガスが胃につまり、
ひとりで出せずに、
悩むときがあるでしょう。
そんなときは、恥ずかしがらず、
誰かに打ち明けてみてください。
「なんだそんなことか」と、
背中をさすり、
「ぐぼぉーっ!」と、
ゲップを出させてくれる誰かは、
きっと近くにいるはずですから。
● 3. はじめての握りこぶし
おぼえていますか?
それはあなたが生まれた次の日の昼下がり。
あなたは慣れない新生児ベッドの中で、
すやすやとお昼寝していましたね。
おぼえていますか?
あなたが気持ち良さそうに寝ているときはいつも、
あなたの両手は、ぎゅっときつく握られていたことを。
そのとき、父さんと母さんは、
生まれたばかりのあなたの手形が採りたくて、
あなたの右手を一生懸命ひらいてみたけれど、
あなたはその握りこぶしにいっそうのちからをこめ、
なかなか手のひらを見せてくれませんでしたね。
それでも父さんはあきらめずに、
あなたが一瞬、気を許したその隙に、
そのこぶしを広げてみましたよ。
おぼえていますか?
そのときあなたが握っていたものを。
それはちっちゃな糸くずでしたね。
それを見つけた父さんは、
「この子、ゴミなんか握ってる。ばっちいね!」
と言いながら、
その糸くずをふっふっと息で払いのけました。
「そら母さん、今のうち!」
父さんが叫ぶと母さんは、
手形の溶液を、手際よくあなたの手のひらに塗りました。
「はい、オッケーよ!父さん!」
母さんが言うと今度は父さんが、
手形用紙をあなたの手のひらに押しつけました。
夫婦でナイスコンビネーションだったのに、
寝ぼけ半分のあなたは、
1枚しかないその高価な用紙を、
グシャっと握りつぶしましたね。
そのとき、父さんと母さんは、
何も言わなかったけれど、
じっと怖い目であなたを見つめていましたよ。
結局、1時間もかけて採ったあなたの手形は、
なんだかわけの分からない、
モダンアートのようになってしまいました。
「すげー!この子、芸術家だ!」
と、父さんが明るくお茶をにごしても、
母さんは笑いませんでしたよ。
そんな険悪なムードをよそに、
あなたはやっぱり、すやすやと、
気持ち良さそうに熟睡していましたね。
案の定、その小さなこぶしを、
ぎゅっと強く握りしめながら。
あきらめた父さんが、あなたの手を拭こうと、
ふたたびそのこぶしを広げてみると、
その5センチにも満たない小さな手のひらには、
どこから持ってきたのか、
新しい、ちっちゃな糸くずがありましたね。
あなたはそのちっちゃな糸くずを、
宝物のようにきつくきつく、握りしめていましたね。
さて、
あなたは今、その手になにを握りしめていますか?
あのとき、ちっちゃな糸くずがあったそのこぶしの中に、
今は、どんなものを握りしめていますか?
もしかすると、
そのこぶしを開いて、誰かに見せてしまうと、
ゴミだといわれ、
ふっふっと払われてしまうのではないか?
そんな恐怖におびえているのではありませんか?
大丈夫。自信を持って。
誰になんと言われようと、
あなたが選んだその「なにか」は、
たとえちっちゃな糸くずに見えても、
あなたにとってはかけがえのない「宝物」なんですから。
少なくとも父さんは、あのときのように、
あなたの大切な「なにか」の価値を、
勝手に決めつけたり、否定したりしないように、
心がけていますから。
だから父さんは楽しみにしています。
いつかきっと、
いつかきっと、
「父さん、見せたいものがあるの」
と、笑顔で言いながら、
かたくなに握られていたあなたのこぶしが、
ゆっくりと開かれることを。
● 4. はじめてのはなくそ
おぼえていますか?
それはあなたが生まれて2日目の朝。
いつものようにすやすやと眠る、
あなたの可愛いお顔の、その鼻の穴に、
父さんと母さんは、
小さな小さな白い物体を、見つけましたよ。
おぼえていますか?
はじめてのはなくそを。
直径3ミリほどのその白い物体は、
見ようによっては、
とてもきれいな、
真珠のようだったけれど、
どれだけ奇麗に形容しても、
はなくそは、はなくそでしたよ。
ところで、助産婦さんによると、
「赤ちゃんのはなくそは、粘り気が強くて、
 奥の方まで糸のように繋がっています。
 だから、綿棒でくるくると巻き取ってね」
だそうで、
母さんはさっそく、綿棒をとりだし、
あなたの鼻の穴に突っ込みましたよ。
突然のことに驚いたあなたは、
目をぱっちりと開け、
「なにするだー!」といわんばかりに、
顔をそむけようとしましたね。
「父さん、押さえて」
無情な母さんから命令された父さんは、
泣く泣くあなたの頭を、
押さえつけるしかありませんでした。
父さんに押さえつけられ、
身動きがとれなくなったあなたの鼻の穴に、
母さんの綿棒は、
容赦なく突っ込まれましたね。
「ふんぎゃー!」
顔を真っ赤にしてあなたは泣き出したけれど、
その意思に反して、あなたの鼻の穴は、
大きく大きく広がりましたね。
「つかまえた!」
母さんは嬉しそうに言いながら、
その小さな真珠を、鼻孔の入り口まで慎重にとりだすと、
くるくると、綿棒を回しはじめましたよ。
おぼえていますか?
不思議なもので、あなたのはなくそは、
奥の方まで細く長く繋がっていて、
そのゴムのように伸びた一筋の糸は、
次から次へと、綿棒に巻き付きましたね。
母さんは息を殺して、
その糸を切らないように、
慎重に、そして手際よく、
巻き取っていました。
それはそれは圧巻で、
にゅろろろぉーんっと、
巻けば巻くほど出てくる透明な糸に、
「すげー!長げぇーよ!」
と父さんはただただ興奮していましたよ。
やがて、手際よく巻き付けられたその物体を、
「はい、わたあめ一丁!」
と笑顔で父さんに渡した母さんは、
ひと仕事なし終えた職人さんのように、
はつらつとしていましたよ。
父さんは、渡された綿棒を見つめながら、
ただただ感心するしかありませんでした。
ぱっと見は、単なる小さなはなくそなのに、
誰も知らないその穴の奥に、
こんなにも長く、
そしてしぶとい「何か」を、
あなたは隠していたのですね。
あなたはきっと気づいていないのでしょう。
だけどいつか、
誰かの手を借りて、
あなたの奥に眠る、
あなたの知らない「何か」が、
にゅろろろぉーんっと、
その姿を現すことを、
父さんは楽しみにしています。
● 5. はじめての父の胸
おぼえていますか?
それはあなたが生まれて3日目の朝。
新生児室から運ばれてきたあなたは、
めずらしく、ご機嫌ななめでしたね。
うんぎゃー、うんぎゃー、とそれはそれは大声で、
泣き叫んでいましたね。
「よしよし、いい子だから泣かないで」
と、まだまだ慣れない母さんが、
ぎこちなくあなたを抱きながら、
必死であやしていたけれど、
それでもあなたは、
うんぎゃー、うんぎゃー、と、
壊れたおもちゃのように、
泣き続けていましたね。
「あ、ちょっとかして!」
ひらめいた父さんは、
母さんの腕の中から、あなたをむりやり奪って、
ベッドの上に横になると、
この胸に、あなたをちょこんとのせましたよ。
おぼえていますか?
父さんの胸の感触を。
父さん、やってみたかったんです。
あなたが生まれたとき、母さんがそうしていたように、
父さんの心音で、
あなたが安心して泣き止むのを、
この目で確かめてみたかったんです。
「なんかいつもよりゴツゴツしてるなぁ」
「おっぱいがないしヘンだなぁ」
そう感じたのかな?
あなたは最初、戸惑ったように泣きわめいていたけれど、
どっく、どっく、どっく、と、
父さんの心音のリズムに、
次第に身をあずけてくれましたね。
やがて泣き止むとあなたは、
父さんの胸で、すやすやと、
寝息をたてはじめましたね。
父さんは嬉しかったですよ。
父さんの心音で、あなたは、
安心して、眠ってくれたのですから。
父さんはあんまり嬉しかったものだから、
気持ち良さそうに眠るあなたの顔に、
ふんっ、ふんっ、と、
鼻息をかけていましたよ。
そのたびにあなたは、
いやっ、いやっ、と、
しかめっ面をしていましたね。
それは本当に、愉快でしたよ。
ところで、父さんは心配しています。
いつかきっと、あなたが、
父さんや、母さん以外の「誰か」の胸で、
すやすやと眠るときがくるのでしょう。
こんなことを言うと、
「アンタ、気が早すぎやで」
と、母さんは笑うけれど、
父さんは心配しています。
いつか、あなたが「誰か」の胸に耳をあて、
聞こえてくる心音に心安らぐならば、
その胸の上で一瞬でも、
時を忘れることができるのならば、
それほど心配じゃありません。
ですが、
もし、
あなたが「誰か」の胸に耳をあて、
聞こえない心音を必死で探しながら、
心安らぐ「フリ」をしているとすれば、
それは、どんなに苦しいことでしょう。
「誰か」の心に耳を傾けても、
しーん、と何も聞こえてこなければ、
それは、どんなに切ないことでしょう。
それを考えるとき、
父さんはいつも、
あのときの母さんの言葉を思い出します。
「アタシ、もう限界やから」
幼かった母さんが、
幼かった父さんの目を見つめ、
ふるえる声でつぶやいた、
あの短いフレーズを思い出します。
無邪気だった父さんの、
胸の奥のほうに、
思いがけず、グサリと刺さった、
あの感触を思い出します。
もしも、あなたが、
「誰か」の心にじっと耳を澄ましても、
しーん、と何も聞こえなかったり、
寂しさに気が狂いそうになっても、
どうか逃げずに、勇気を持って、
立ち向かってください。
父さんは、何もしてあげられないけれど、
遠くから、祈っています。
あなたが、その寂しさに目を向けることを。
あなたが、その寂しさに立ち向かい、
「誰か」の瞳を真正面から見つめることを。
父さんは、祈っています。
でも、あなたなら、きっと大丈夫。
だってあなたは、
母さんの子なのですから。
だってあのとき母さんが、
勇気を持ってその寂しさに立ち向かわなければ、
きっとあなたは、
生まれていなかったのですから。
● (執筆中...)
ご感想を下記までおよせください!

ご感想でなくてもOKです。
恋愛相談とか、
世間話とか、
上司の愚痴とか、
なんでも構いません(笑)
お気軽に送ってくださいね。

お待ちしております。
では。

-knt2-

出産秘話 本編2 〜新生児編〜

〜おぼえていますか? 未来の娘へ、あるいはあなたへ〜